『日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた』は加筆修正し、新書版『伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち』として2019年9月7日に発売となりました。ぜひ新書版にてお読みください。
『伝説となった日本兵捕虜 ― ソ連四大劇場を建てた男たち』
私は2015年秋に、ウズベキスタンで捕虜として抑留された日本兵457人がタシケントに優れたオペラハウスを建設した事実をまとめたノンフィクション『日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた』を角川書店より上梓しました。このテーマは、私がNPO日本ウズベキスタン協会を設立した後、10年以上にわたり取材、調査をしてきたものです。実話のノンフィクションとするため、何度か挫折しながらも書き上げた、思い入れのある作品です。
同書は2015年10月、11月にはアマゾンの「日中・太平洋」部門で1位となり、その後、徐々に売れ行きを伸ばし3刷となりました。そして、発売から4年余りを経て、旧版の本を加筆修正し9月7日に新書版『伝説となった日本兵捕虜 ソ連四大劇場を建てた男たち』として発売される運びとなりました。
タシケントの街が大地震で殆んど崩壊したにも拘わらず、日本人の建てた「ナボイ劇場」はびくともせず、凛として悠然と今日まで建ち続け、なおオペラハウスとして存在しています。その物語は、日本人伝説として中央アジアなどに広まっており、日本人のものづくりの確かさ、勤勉さ、和と協力の精神などが今なお現地に感銘を残しています。
ぜひ若き日本の抑留者たちが忍耐強く、苦役を克服し、一致団結の和の精神で期日までに劇場を完成させたこと。その労苦が中央アジア全体に多くの親日国を作るきっかけにつながったこと。これらを知って頂き、満州抑留兵のもうひとつの秘話を広めていただきたいと思っております。
新書版となり、価格も安くなり、持ち運びも容易になったと思います。日本人論を再考し、感涙の一冊としてお知り合いの方におすすめいただければ幸甚です。
2019年 12月 吉日
発売日:2019年9月7日 定価: 860円(本体価格) 発売元:角川書店(角川新書)
編集者:岸山征寛氏 オビ・口絵デザイン: 白金 正之氏(Zapp!)
■目次
序章 シルクロードの”日本人伝説
第1章 敗戦、そして捕虜
殺気だっていた敗戦直前の満州/ 「戦争に敗けた現実」/ 楽土をめざした満州国崩壊/ 満州で徴兵された民間人が見た赤紙/ 新兵、大塚武の敗戦/ 牡丹江の悲劇/ 満州の日本人は放置された/ 武装解除を命令した関東軍/ ソ連の日本人捕虜60万人利用計画/ 日本を5つの占領区に分割する案があった/ 捕虜は労働使役に利用された
第2章 抑留、劇場建設へ
永田隊は帰国の望みを断たれた/ 免れたシベリア送り/ ウズベキスタンのタシケント、”石の都”へ入る/ ボリジョイ劇場建設という特殊任務/ タシケント・第4収容所/ オペラハウス建設457人の隊長となる/ 収容所長アナポリスキー/ 「最も重要な使命は全員が帰国することだ」
第3章 収容所長との交渉
食事とノルマ/ ラクダの肉、骨ばかりの魚/ 全員に平等な食事を!/ ソ連側と真剣交渉へ/ 実験/ 食事の公平分配に成功する/ 永田に一目おくアナポリスキー/ ”和”の精神を説く
第4章 誇れる仕事
増援部隊の面々/ 「世界に引けをとらない建築物をつくるんだ」/ 密かに敬愛された人物/ 若松をソ連も頼りにした/ ダモイ第1選抜を断る/ 転落事故死/ 2人の追悼式
第5章 秘密情報員と疑われた永田
合唱団結成へ/ 麻雀、将棋、花札、碁を手作り/ バイオリン作りも始まる/ 手作りの芝居、演芸大会/ 演芸大会はウズベク人も親子で訪れた/ 民主運動/ 「第4は民主運動に遅れている」/ 秘密情報員と疑われた永田/ 「抑えつけたら、すぐわかる」/ 盛り上がらなかった第4の民主運動
第6章 収容所の恋
「早く食べて」/ ウズベク人に『草津節』を教える/ 恋人ナージャ/ 「ダモイなのね」/ 帰国前に完成見学会を/ 「本当にありがとう、スパシーバ」
終章 夢に見たダモイ
永田の最後の仕事は名簿の暗記だった/ アナポリスキーとの再会/ 「もう、ダスピダーニャはないのだ」/ 「日本だ、日本だ」/ 「第4ラーゲル会」を作る/ タシケントを思う/ 日本人伝説
あとがき
主要参考文献
写真提供
■『日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた』
書評のご紹介〜日本人が知っておきたい秘話〜
評者は「トレイシー 日本兵捕虜秘密尋問所」(講談社/2010年講談社ノンフィクション賞受賞作)の著者であるノンフィクション作家の中田誠一様が共同通信に寄せられ、全国の地方紙に掲載されました。素晴しい書評ですので、ご紹介いたします。
抑留者たちの奇跡の物語
まことにタイムリーというべきか、このほどユネスコの世界記録遺産に第2次大戦後のシベリア抑留資料「舞鶴への生還」が登録された。シベリア抑留では、旧満州などの日本軍将兵約57万5千人がソ連の捕虜となり、約5万5千人が死亡した。シベリア、中央アジア、モンゴルなどに送られて強制労働に従事させられたのである。
本著は、ソ連抑留の秘史である。しかもヒューマニズムあふれる稀有(けう)な物語だ。満州からシルクロードのウズベキスタンの首都タシケントに送られた捕虜たちが、オペラハウスを建てたというからただ事ではない。ソ連の四大劇場の一つとされたナボイ劇場である。
1966年、タシケントを襲った直下型大地震にもビクともしなかったことで、建設の仕上げに携わった日本兵のことが想起され人々に称賛の声があがったという。
戦争は国家の武力の対決であり文化の対決でもある。国民性や民族の特性が如実に表れる。ナボイ劇場の建設に関わったのは、満州の旧陸軍航空部隊の永田行夫大尉を隊長とする第4ラーゲリ(収容所)の457人の工兵たち。大工、電気工、とび職など技術者が多かった。応召前には日本の伝統文化や技能の担い手だった職人である。
武器を捨てた抑留者たちは、2年後の劇場完成を目指して日本人の技術、勤勉、団結力など、その力を最大限に発揮して懸命に働いた。24歳の永田隊長の卓越した統率力、勇気、希望、それに応えたソ連側の収容所長の人間性。抑留者たちの連帯と市民や建設現場の親方たちとの心温まる交流、地元女性の悲恋など多くの逸話が生まれた。
日本兵はシルクロードにオペラハウスという後世への文化遺産を建設したのだ。抑制の利いた文章が、幾重にも感動の渦を巻き起こす。
戦後70年に続く、ナホトカから舞鶴港に帰国した人々の戦争の軌跡と真実の物語である。
(中田整一・ノンフィクション作家)
■『日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てた』
発売日:2015年9月30日 定価: 1600円(本体価格) 発売元:角川書店
編集者:岸山征寛氏 装丁:鈴木正道氏 (Suzuki Design)
[装丁デザインの余談]
ソ連四大劇場の一つとされたオペラハウス、ナボイ劇場。いまもウズベキスタンの誇りとなっている壮麗な劇場を建てたのは、シルクロードに抑留された、若き日本兵捕虜たちだった。本のビジュアルをどうするか。最初は建物の外観で行こうと考えていましたが、内部にこそ、その緻密差・壮大で絢爛たる意匠が現されていました。そして、長いタイトルゆえ文字組にメリハリをつけ可読性をよくしました。店頭での読者の通り過ぎる瞬間は一瞬です。少しでも早くタイトル、帯コピーを読んでもらう。そこが勝負です。
(鈴木正道氏サイトより)